記憶シュレッダー
「無理すんなって」


浩太はそう言ってあたしの手を握り締めてきた。


驚き、咄嗟に手を引っ込めようとする。


しかし、浩太は思っていたよりもずっと強い力であたしの手を握り締めていて、ひっこめることができなかった。


あたしの心臓は今にも破裂してしまいそうだけれど、浩太はそんなこと気がついていない様子だ。


きっと、男友達の手を掴むのと同じような感覚なのだろう。


「ちょ、ちょっと浩太……」


身を離そうとしたその時だった、


フワリと浩太の香りが近付いてきたかと思った瞬間、あたしは浩太に抱き締められていたのだ。


頭の中は真っ白になった。


なにがどうなっているのか全然理解できない。


それでも浩太はあたしを抱きしめて、まるで子供をあやすように頭をポンポンとなでるのだ。
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