最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「一絵、起きて大丈夫か?」
「だいぶよくなりました。前よりは軽くなってきてますよ」


そう言って俺に向ける笑顔には、心なしか母性が滲んでいる気がする。

彼女は空腹になると気持ち悪くなる〝食べづわり〟というタイプらしい。飴やガムなど、ちょっとしたものを食べると吐き気が和らぐのだと言っていた。

三カ月の頃は特に苦労していて、仕事中もひどい顔をしているものだから強制的に休ませるときもあったが、今はなんとかうまく対処できているようだ。

彼女は俺がキッチンに立っているのを不思議に思ったらしく、ゆったりと歩いて隣にやってくる。


「なにか作ってたんですか?」
「ん、ああ……」
「わぁ、うどん! 美味しそう」


俺が歯切れの悪い返事をするのにはわけがあるが、手元にある冷やしたうどんと薬味を覗き込んだ一絵は、感嘆の声を上げた。


「慧さんって料理できたんです……あ」


次いでクッキングヒーターに目をやり、ぽかんと口を開けて固まった。

鍋の中には香ばしい香りを漂わせるおかゆと、野菜がクタクタになった汁物、さらにシンクには洗い物が乱雑に積まれている。
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