最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「私のためにがんばってくれたんですね。ありがとうございます。すごく嬉しい」


ふわりと微笑む彼女がとびきり可愛くて、ガラにもなく胸がときめいた。確かに一絵のためだけれど、そんなふうに感謝されると照れてしまうし。

「食欲出てきました」と明るく言って、食器棚のほうへ向かおうとする彼女を引き止め、後ろから抱きしめる。


「け、慧さん?」
「一絵にもこの子にも、何事もなく生まれてきてほしいよ」


まだ小さい彼女の腹にそっと手を当て、切実な願いを口にした。

妊娠を告白されたあの日から、久礼さんにもアドバイスされた通り、言葉や態度でなるべく気持ちを表すようにしている。

会社での振る舞いは以前と変わりないが、唯一俺の執心っぷりを知っている瀬在だけは、祝福するのを通り越して気味悪がっているくらいだ。

急に抱きしめられて驚いていた一絵は、頬を緩めて俺の手の上に自分のそれを重ねる。


「生まれたら、三人で楽しいこといっぱいしましょうね」


俺を見上げて言う彼女に約束するように頷き、優しくキスをした。

幸せな未来を実現させる頃には、もっと君が愛おしくなっているに違いない。


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