最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
〝社長〟ではなく〝慧さん〟と呼んでいるところから、慧さんの友人として頼んでいるのだろうとわかる。

瀬在さんは知っているんだ、慧さんの弱い部分を。私はまだすべてを見せてはもらえていないのだと思うと、ちょっぴり切ない。

気になる……けど、これは私が掘り下げるものではないだろう。

いつか彼が弱みを見せてくれたときは、瀬在さんの頼み通り包み込んであげられる妻になろうと心に決め、「はい」としっかり頷いた。


先ほどから使っている自分の席へと戻りながら、まだミーティングを続けている慧さんを盗み見る。社長としての彼からは、一見欠点があるようには思えない。

私はどんな慧さんでも受け入れる自信はある。いつの間にかそのくらい好きになっていた。その始まりはいつだったんだろう。

瀬在さんに聞かれたことで、自分でも気になりつつノートパソコンを開くと、緑がかった空に街と植物をコラージュした画像が映し出される。

私が学生時代に作った思い入れのある作品を背景にしているのだ。これを見ると、慧さんと初めて会った四年前のことを鮮明に思い出せるから。

今も改めてその日を思い返せば、胸の高鳴りまで蘇ってくる。そうして、ふと気づいた。

私は初対面のときから、彼に惹かれていたのかもしれない──と。

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