最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
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大学四年の春、私は父に誘われてエムベーシック本社ビルを見学させてもらった。
グラフィックデザイナーになりたいと早くから両親に伝えていた私は、当然ながらエムベーシックに就職するように言われていた。
そこは特に抗う理由もなかったが、コネで入社したとは絶対に思われたくないので、社長令嬢である事実は隠して皆と同じく就職試験を受けると決めている。
まあ、企業説明会以外でこうして見学できるのは完全にコネなのだけど、単純に会社のことを知りたい好奇心に負けてしまったわけだ。
デザイン関係のオフィスをひと通り見させてもらったあと、私は高層階にある社長室でひとり父が戻るのを待っていた。
『せっかくだからスイーツでも食べて帰ろうか』なんて女子高生みたいなことを言われ、あまりにウキウキしていたから断れなくて。
まあ、確かにふたりで出かける機会なんて滅多にないし、嬉しそうにする父は微笑ましい。今日くらい付き合ってあげよう。
用事を済ませるために出ていった父を待っている間、私は持ってきていたノートパソコンを開いてポートフォリオを見直すことにした。