最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
総務部やマーケティング部は、ガラスのパーティションの間仕切りで区切られている。私たち制作部とはワークスタイルが異なるので、コミュニケーションをとりつつもそれぞれが集中しやすくするためだ。

デスクに座っている増田(ますだ)総務部長に申請書を差し出すと、彼は眼鏡の奥の瞳を細めて「あー、はいはい」と微笑んだ。


「ありがとう。育休も取るよね? その申請書もまた出してね。早い分には構わないから」
「わかりました。お願いします」


和やかな雰囲気に癒されつつ、私は頭を下げた。

増田部長は、今年の春に本社のエムベーシックから出向してきた三十代後半の男性。爽やかな笑顔がデフォルトで実年齢よりも若く見え、人当たりのいい性格なので、皆から慕われているのだ。

彼は申請書をファイルに入れ、思い出したように問いかける。


「あと、高海くんに聞きたいことがあるんだけどいるかな? さっきから姿が見えなくて」


高海の名前が出されただけで内心ドキリとするも、いたって平静に答える。


「一人用のブースにいると思いますよ。あの人、そこじゃないと集中できないらしいので」
「そっか、ありがと」
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