最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「社長と生活してて息詰まらない? 聞いたところ政略結婚だったみたいだし、無理してないか心配になるよ」


しかし、気の毒そうにする増田部長の言葉は否定したい。高海と同じように思われているみたいだけれど、プライベートの慧さんはまた違うから。


「それが全然なんです。好きな人と毎日一緒にいられて幸せですよ」


暗くなっていた表情を自然な笑顔に変えて明るく返すと、部長は面食らったように目を丸くした。

落ち込んでいる場合じゃない。慧さんがドライなのはいつものことだし、とにかくミスを修正しなくては。

「じゃあ、失礼します」と部長に軽く頭を下げ、気持ちを切り替えて自分の席に戻った。


その日の晩、夕飯の支度をしている最中に帰宅した慧さんが、突然「なにかあったか?」と問いかけてきた。私はサラダの器をテーブルに置いて、目をしばたたかせる。


「えっ、なんでですか?」
「一絵があんなミスをするなんて珍しいから、少し気になって」


ネクタイを緩めながら言う彼を見て、昼間のことだと理解した。

実は、最近仕事の調子があまりよくない。デザインも進みが遅いし、今日のようにミスをしてしまうし。
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