最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「他の男のほうが彼氏に見えるだなんて、不愉快極まりない。一絵を他の社員と平等に扱いながら、俺の妻だともっと周知させるにはどうしたらいいんだ」


意外な理由に、私は目を丸くして顔を上げる。眉根を寄せ、困った顔を見せる彼に、胸がキュンと鳴いた。

もしかして不機嫌だったのは、私がミスしたことより、増田部長の言葉が気に障ったから? それに、私を特別扱いせずに自分のものだと知らしめる方法で悩んでいたとは。

瀬在さんが言っていた通り、慧さんは女性のことに関しては本当に不器用なんだな。それがとても愛おしい。

彼の胸におでこをくっつけてクスクス笑う私に、不可解だと言いたげな声が降ってくる。


「なんで笑う。君が奪われないか心配しているっていうのに」
「慧さんがしゃべればしゃべるほど、くすぐったくて……」
「は?」


独占欲を露わにしている自覚もないらしいので、そこがまた愛しくて胸をくすぐられた。

慧さんからの愛は、こうしてちゃんと伝わってくる。言葉がなくたって感じ取れるよ。

誰になにを言われても、どう思われていても、彼のそばにいる私は間違いなく幸せだ。

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