最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
偶然の再会に笑い合ったあと、診察を終えたばかりらしい彼女が、長い髪を耳にかけながら言う。


「よかったら、このあとランチしませんか?」
「喜んで」


これもなにかの縁だと嬉しくなり、私はふたつ返事で承諾した。


私の診察も問題なく終え、ロビーで待っていてくれた彼女と合流した。今日は土曜日だが、慧さんは仕事でいないので気兼ねなくランチができる。

彼女の名前は、小宮山(こみやま) (すみれ)さん。私より四歳年上の二十九歳だそう。

妊娠三カ月に入ってもつわりがほとんどないらしく、うらやましいことこの上ない。

なので、ランチのお店は私が気楽に選ばせてもらった。お気に入りのカフェがあり、ぜひ菫さんも連れていきたかったのだ。

産婦人科から徒歩十五分のそこは、パリの雑貨屋のように可愛らしく遊び心のあるカフェ。店内の壁にはたくさんの本が並べられていたり、無造作に蔦が伸びていたりして、ハイセンスな造りになっている。

妊婦でもくつろいでいられる心地いいソファに座り、私イチオシのメニューをオーダーした。珍しい茶葉もたくさんあり、それをセルフで淹れられるのも魅力的。
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