最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「赤ちゃん、女の子って言っていたっけ。もう名前は決めてる?」


そういえば、一応慧さんにも女の子の可能性が高そうだと話したのだった。今はまだ、名前の候補を挙げている段階だ。


「まだなんですけど、とりあえず〝い〟から始まる名前がいいなとは思ってて」
「へぇ、どうして?」


興味深そうにする菫さんに、なんとなく気恥ずかしくなり、私は肩をすくめて答える。


「彼の名前〝慧〟っていうんです。アルファベット順で、私と彼のイニシャルのHとKの間にある、IかJのどちらかで始まる名前にしようかと」


私と彼との間にできた子だから、という思いつきなのだが、間にあるアルファベットはふたつ。どちらの頭文字にしようかと考えているとき、慧さんは優しく微笑んで『いずれ、もうひとり欲しいな』と言った。

そんな幸せな会話を思い出すだけで、心も身体も温まる。締まりがなくなる口元を結び、照れ隠しでグラタンをすくって口に運んだ。

しかし、なんのリアクションも返ってこないので目線を上げると、菫さんはなぜか驚いたように目を見張っている。


「……菫さん?」


首をかしげる私に、はっとした彼女は一度目を逸らした。なにかを隠すかのように瞼を伏せたあと、再び目線を上げて柔らかく微笑む。
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