最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「おしゃれな名づけ方ね。すごく素敵だと思う」


声色は明るいが、なんだか無理やり口角を上げているように見え、かすかに胸がざわめいた。

彼女はどこか切なげにも感じる笑みを浮かべて続ける。


「話している一絵さんの顔を見てるだけで、旦那さんとの仲のよさが伝わってくるわ。ふたりは運命の相手だったのね、きっと」


しっとりとした口調で紡がれる言葉は、出まかせを言っているようには感じない。それでも、やっぱりなにかを秘めている気がする。

……菫さんって、儚げでミステリアスな雰囲気がする人だ。名前の通り、いたずらに触れたら散ってしまいそうな、可憐な花びらのごとく。

でも、その繊細さが魅力的でもあるのだろう。私にはない女性らしさを持っている彼女と接するのは新鮮で、同じ妊婦という仲間意識もあるから話が途切れることはない。

話しているうちに、先ほどのちょっとした違和感はなくなっていて、私は単純に彼女とのランチを楽しんでいた。

< 166 / 274 >

この作品をシェア

pagetop