最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
仕事を終えて帰宅したあと、ぼうっと考え事をしながら夕飯を準備して、旦那様の帰りを待つ。
不倫疑惑といい菫さんの件といい、顔を合わせるのがとても気まずい。どんなテンションで迎えたらいいものか。
幾度となくため息をついていると、ガチャリとドアが開く。「ただいま」と帰宅した彼に、ドキリとしつつ挨拶を返す。
「おかえりなさい。あの……」
「まいったな、あんなことをする奴がいるとは」
とりあえずなにかしゃべろうとしたとき、ソファに向かう慧さんが疲れた様子でそう口にした。
複雑な心境の私に、彼は「おいで」と声をかける。その穏やかな声に、少しだけ心を安らげて歩み寄った。
ふたりでソファに座ると、慧さんは強張った面持ちで私を見つめて問いかける。
「個人的になにかされたりしていないか? 俺に対してなのか一絵に対してなのかわからないが、悪意を抱いている人間がいるのは確かだから、それが心配だ」
私を責めるのではなく、身を案じる気遣いに心の奥がじんとした。
私は控えめに微笑み、首を横に振る。
「今のところは大丈夫です」
「そうか。なにかあったらすぐに言えよ」