最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
抑えきれない憤りを滲ませた声で本音を吐露され、揺れる木立のごとく胸がざわめいた。

高海に向かって『これしきで崩れるような脆い関係じゃないからな』と笑みを見せたとき、本当はいら立ちを押し殺していたのだ。ついさっきの紳士的な態度も、きっと我慢して……。

もしかしたら、自分に言い聞かせるためでもあったのかもしれない。私たちの絆を信じているというより、信じたいんじゃないだろうか。

『間違いがあってからじゃ遅い』のひとことが、私への信頼が揺らいでいる表れのように思える。

とても悲しくなると同時に、理不尽な気持ちも沸々と湧いてくる。あなたこそ、隠していることがあるでしょう?と。


「……慧さんは、間違ってないと言い切れますか」


ぽつりとこぼすと、怪訝そうに眉根を寄せた彼の顔がこちらに向けられる。


「どういう意味だ」
「菫さんのこと、知り合いなのにどうして嘘をついたの?」


思いきって問いかけると、彼は意表を突かれたように目を見張った。その目を私から逸らし、若干の怒気を含んだ調子で言い放つ。


「言う必要がないと判断したからだ。とっくに昔のことで、君には関係ない」


一方的に突き放され、胸に刃が刺さったかのごとく痛みが走る。腹立たしさもあって、声が荒ぶる。
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