最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
ぱっと顔を輝かせ、嬉しそうににんまりする社長は、ひとりの父親なのだと感じさせられて微笑ましい。

彼は美味しそうに日本酒に口をつけたあと、少し表情を引きしめて言う。


「どうだろう。娘の意思ももちろん尊重したいし、君にも目ぼしい女性がいなければの話だが、政略結婚というのも視野に入れておいてもらえないだろうか」


今の段階では、彼女に好感は抱いていても、愛せるようになるかどうかはわからない。しかし、結婚することで松岡社長が満足するなら、受け入れようと思った。

俺も、両親や姉に〝いつになったら身を固めるのか〟と度々聞かれる年になってきたが、女性と付き合うのは面倒だし、いっそ決められた相手とのほうが腹を括れる。

そもそも、彼女が嫌なら断るはず。というか、愛のない結婚をしたいと思う女性は少ないだろう。そのときはそのときだ。


「わかりました。一絵さんが、私が伴侶でいいとおっしゃるなら」


その可能性は低いだろうが、とにかく俺は理想を実現させるためにできることをするまでだと決心し、結婚を承諾した。

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