最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「ありがと……」と受け取った彼だが、なぜか不満げな顔をしている。どうやら双子らしく、母親はもうひとりの男の子の面倒をみるので手一杯のようだ。

膨らんだ柔らかそうなほっぺと、小さく突き出した唇がいじらしくて、なにかしてあげたい気持ちになる。

俺のそばには、恐竜の絵が描かれた絵本が出しっぱなしになっている。それを手に取り、男の子の顔を覗き込む。


「絵本、読んであげようか」
「いいのー!?」


ぱっと顔を上げて、目をきらきらさせる男の子。ビー玉みたいな瞳は純真そのもので、まさに胸キュンだった。可愛すぎる。

ブロッククッションに並んで座ると、気づいた母親が「すみません!」と頭を下げる。それを優しく制し、さっそく読み聞かせ始めた。

独特で面白いそれを読んでいるうちに、自分まで童心に返る。

最近の絵本はこんなにユーモラスなのか。それに、原色が多くてはっきりしているから、俺でも色が見分けやすい。

そんな視点で興味深く見ていると、数カ月前に読んだ、色弱者が書いた色覚検査についての記事を思い出す。

彼はその中でこう語っていた。『私は色弱であることを知りたくなかった』と。
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