最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「もう生まれるってことか!?」


つい大きな声を出してしまい、すれ違う人が困惑気味に振り返るが、そんなのはどうでもいい。

破水って、普通は生まれる直前に起こるものだろう? 予定日までまだ何週間もあるのに、もうそのときが来るのか?

心の準備が整っておらず動揺しまくる俺とは反対に、一絵は案外冷静に返してくる。


『まだ陣痛が弱いから、早くても夜になるんじゃないかって。だから焦らないで、仕事してきてください』
「そんなに落ち着いていられるか……!」
『大丈夫。どうしようもなくなったらお母さんを呼ぶし、私も今は余裕だから』


彼女は気楽に笑っていて、確かにドラマでよく見るような切迫した状態ではなさそうだ。こちらもすでに執行役員の面々はそろっているはずだし、今中止にするわけにもいかない。

すぐにでも駆けつけたい衝動を抑え、決心する。


「役員会が終わったらすぐに行く。ひとりにさせてごめんな。……がんばれ」


陳腐な励まししかできない自分が情けないが、一絵は『うん。待ってます』と力強く応えてくれた。

この一大事を乗り切ったら、溢れそうな想いを君に伝えるから。俺が行くまで、どうかがんばっていてくれ。

一絵と俺たちの子の無事をひたすら願い、なんとか気持ちを落ち着かせて再び歩き出した。

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