最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
溢れんばかりの幸せに包まれた、その直後だった。

一絵の顔からすうっと笑みがなくなったかと思うと、「寒い……」と呟くのが聞こえた。握っている手が急にガタガタと震えだし、それは全身に伝わっていく。


「一絵?」


異常が起きているのは明らかで、言い知れない恐怖に襲われる。心電図がこれまで聞いたことのない音を鳴らし、助産師たちが緊迫した声を投げ合う。


「出血量、千二百ミリリットル、血圧下がってます」
「白藍総合病院に連絡して」


状況は一気に焦眉の急と化して騒然とする中、俺は朦朧としている一絵に声をかけ続ける。


「一絵、おい、しっかりしろ!」


もう力が入っていない手を握りしめ、思わず頬に手を当てた。


「生まれたら楽しいことたくさんするんだろ? 三人で帰るぞ、絶対に」


いつか彼女が言っていた言葉を口にすると、うつろな瞳が俺を捉える。そして、ほんのわずかに口角を上げた。


「けい、さ……だい、すき……」


──一絵の口から聞いた、初めての告白。その囁き声を届けてすぐ、瞼が完全に閉じられた。
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