最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
しかし、私の髪を撫でる彼の表情が、みるみる切なげに変わっていく。


「一絵が意識を失くして、本当にどうなるかと……。もう目を開けないんじゃないかって、怖くてたまらなかった」


声を震わせ、子供みたいに怯えた弱々しい姿を見るのは初めてで、心配させて申し訳ない気持ちで一杯だ。

点滴がついていないほうの手をなんとか動かし、彼の頬へと伸ばす。


「もう大丈夫。ずっとそばにいます」


安心させたくて微笑むと、慧さんは涙を堪えるように綺麗な顔をくしゃっとさせる。頬に触れた私の手を取った彼の、伏せたまつ毛の先はわずかに濡れていた。


ほどなくして先生が現れ、私の状態を確認する。血圧が低いままなので安静にしていなければならず、赤ちゃんに会えるのはしばらくおあずけとなってしまった。

まさか自分が出血多量で緊急搬送されるなんて。高海の『生きて戻ってこい』発言が冗談じゃなくなったわ。

なにより、わが子に会えないのが本当につらい。早く顔を見て、抱き上げたくてたまらない。

すっかりヘコんだお腹を少し寂しく思いながら、慧さんにそのもどかしい思いを吐き出すしかなかった。
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