最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
ああ、やっぱり私のためを思って明かさなかったのだと、それを聞いて心が軽くなった。

でも私、陣痛を耐えている間、色弱のことであーだこーだとひとりしゃべっていたよね。慧さんは気を悪くしなかっただろうか。


「私、さっき失礼なこと言ってませんでしたか? 必死すぎてうろ覚えで……」
「俺を感動させることしか言ってないよ。焼肉、食べに行こうな」
「はっ、焼肉!」


そういえば、そんな間抜けな発言もしたような……。なんでそれで感動できるの!?

変な顔をする私に慧さんはクスクスと笑って、今日はずっと握ってくれている手を幾度となく包み込んだ。


「紅葉も、桜も見に行こう。一絵となら、どんな景色も輝いて見えるから」


嬉しい言葉をもらえて、鼓動が優しく弾む。

手の平から全身に伝わるぬくもりを感じながら、彼の話の続きに耳を傾ける。


「俺の目に映っているのは、普通の人からすると少しくすんだ色味なんだろう。自分が特別だと知ってから、ずっと周りの人たちがうらやましかった。皆が綺麗だと言う世界は、一生体験できないから」


改めて聞くと切なくて、私の表情がわずかに曇った。ところが、彼の瞳はとても穏やかに細められる。
< 256 / 274 >

この作品をシェア

pagetop