最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
とはいえ、拒否もしたくなくておとなしく受け入れていると、ゆっくり顔が離された。

間近にあるのに、私と視線を合わせない彼の瞳はかすかに揺れていて、珍しく動揺しているのが感じ取れる。やはり、衝動的にキスしたことを表しているんじゃないだろうか。

このロマンチックな雰囲気のせいで魔が差しただけ? それとも……少しは私に好意を持ってくれたから?

頭の中にはふたつの選択肢が浮かぶが、彼の真剣な表情の中に深刻そうな色も含まれているように見え、前者の可能性が大きいのではと不安になる。

彼がなにかを言おうと口を開きかけたとき、私はその不安に負けてしまった。


「ひと──」
「帰りましょうか!」


慧さんとほぼ同時に、私はあからさまに空元気な声を上げてわざと中断した。もし今のキスを詫びられでもしたら、私への気持ちがないことを再確認させられる気がして怖かったのだ。

呆気に取られる彼から顔を背け、肩を抱いたままの腕からそっと抜け出す。
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