最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
私はこの理由を以前から知っている。確かに、どちらもこの会社のお偉いさんの苗字だから、それを呼び捨てにするのはなんとなく気が咎めるのもわかる。

高海はひと口コーヒーを飲んだあと、麻那をじろりと見やる。


「つーか、一絵にだけ甘いってことはないだろ。この間、及川の肩揉んでやっただろうが」
「あ、そうだった」


たった今思い出したらしい彼女は、ケラケラと笑った。肩を揉んでもらうって、本当に仲がいいな。そして高海はつくづくお人好しだ。

カプチーノをいただきながら微笑ましく思っていると、麻那が私に提案してくる。


「高海くん、こう見えてマッサージ上手なんだよ。肩もみ券を作りたいくらい。ひとちゃんもやってもらったら?」
「え」


即座に高海の困惑に満ちた声が聞こえたが、麻那がそんなに絶賛するなら気になるじゃないか。


「へぇ~、じゃあお願いしようかな。最近よく凝るんだよね」


彼のほうに背中を向け、やりやすいように少しうつむいた。しかし、肩を揉まれる気配はなく、代わりに戸惑いの声が聞こえてくる。
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