最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「お前……社長がいるのにいいのかよ」
「え? 慧さんなら今日は出張でいないでしょ」


私はキョトンとして振り向いた。

慧さんは明日にかけて留守にしていて、それは高海も知っているはず。というか、別にいたとしても休憩中に肩揉みしてもらうくらい、サボっているとか怠けているとは思われないだろう。


「いや、そういうことじゃ……あーもういいや、めんどくせぇ。前向け」


高海はなぜか投げやりな調子でくしゃくしゃと頭を掻く。私は首を傾げるも、とりあえず従ってまた前を向いた。

そうして肩に両手を置かれる直前、彼の手がぴたりと止まる。


「……失礼します」
「なんで敬語?」


打って変わって妙に丁寧な彼に失笑したものの、次いで繰り出されるマッサージに、私は軽く感動しながら声を上げる。


「うわーほんとだ、気持ちいい~」
「よくうちの姉貴にやらされてたからな」


ああ、そういえば高海には五歳上のお姉さんがいるのだった。『自由奔放で弟をこき使う、しょうもない姉だ』とか言っていたっけ。

世話焼きだったり、私たち女子の中にいても違和感がないのは、こういう姉弟関係のせいもあるのかもしれない。
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