最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
ただ、この結婚に関しては別だった。だって、選ばれたお見合い相手が慧さんだったんだもの。憧れの人との結婚話なら喜んで受け入れられた。

これまで反発してばかりだった私がすんなり了承したものだから、両親は気味悪がっていたっけ。結局、別れを選んでしまったけれど。


「会社では別姓ですし、周囲の人にはあえて言わなければ気づかれないと思います。もともと皆の前で夫婦らしいことはしていませんしね」
「……そんなに離婚したいのか」


渇いた笑いをこぼす私に、表情は変わらないがどことなく覇気のない声がかけられた。少しでも寂しいと感じてくれていたらいいな、なんて都合よく捉えながら小さく頷く。


「まっさらにして、新しい生活を始めたいんです。両親への説得や引っ越しなどを考慮して、余裕を持って一カ月後くらいには」


どうせもうあとには引けないのだと開き直って我を通し、離婚までの具体的な期限を告げる。

彼はしばし思案したあと、「わかった」と承諾してペンを取った。
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