最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
「慧さんはお仕事終わりました?」
『ああ。今、交流会が終わったところだ』
「お疲れ様でした。久々の大阪はどうですか?」
『相変わらず独特で楽しい街だよ。今頃になってたこ焼きが食べたくなってる』


なんだか可愛らしいひとことに、私はふふっと笑った。仕事人間の社長様も、やっぱり普通の人だなと感じる。

しばし出張の内容やお土産の話をしていたのだが、楽しい気分でいられるのはほんのつかの間だった。


『一絵は変わったことはなかったか?』


そう問いかけられ、すぐに現実に引き戻される。変わったことどころじゃない。ただならぬ事態になっているのだから。

今、伝えるべきだろうか。でも、出張の合間ではそれこそ迷惑になる?

どうしようと悩んでいたとき、なにかに気づいたような『あ』という短い声が聞こえた。次いで、やや気まずそうな調子で彼が言う。


『悪い、一絵……うるさくなりそうだから切る』
「え?」
『明日、なるべく早く帰るよ。明後日は大事な日だし』


〝うるさくなりそう〟ってどういうこと?と気になったが、明後日の話が出されて口をつぐんだ。
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