最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
綺麗な切れ長の瞳が、大きく見開かれた。しかし、まだしっかり理解できていない様子だ。


「……え?」
「昨日、生理が遅れていることに気づいて、検査薬で調べたら陽性で」


そこまで話した途端、慧さんは私のすぐそばに近寄り、ひざまずいた。驚きと焦燥が交ざったような表情で、私を一直線に見つめて問いかける。


「病院は?」
「さっき行ってきました。ちゃんと赤ちゃんの影があって、もう、心臓も動いてて……」


エコーで見たときの感動が蘇り、目頭が熱くなる。


「私、この子を──」


〝産みたい〟と言おうとした瞬間、彼の上体が覆い被さってきた。

優しく、かつしっかり守るように抱かれ、今度は私が驚いて目をまん丸にする。


「……奇跡だ」


彼の口からこぼれた声はかすかに震えていた。決して困っているふうではなく、感激しているらしいことが伝わってくる。

もしかして喜んでくれているのだろうかと、半信半疑で呆然としていると、両腕を掴んだままそっと身体が離された。


「一絵、悪いが離婚の話は白紙にさせてもらう」
「え……」


見開いた私の目に、やや眉を下げた真剣な表情が映る。


「君も、この子も失いたくない」

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