最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
妻にご執心の四カ月 Side*慧
一体、俺の恋情の始まりはどこからだったのだろう。
身体を重ねたときか、あるいは初めて会ったときからだったのか。
もしかしたら明確なきっかけはなく、彼女と過ごす一日、一分一秒ごとに大切な存在になっていたのかもしれない。
自分でも気づくことなく、静かに、ゆっくりと。
「慧さん、こちらにサインしていただけますか?」
結婚して一年が経って間もなく、妻から離婚届を差し出された俺は、特別驚きもしないで〝ああ、やっぱりか〟と納得した。
一絵に対してはなんの不満もなく、むしろよくやってくれる子だと感心していた。帰宅したときも、朝起きたときも常に手作りの食事が用意されているし、部屋は散らからず、洗濯もアイロンがけも完璧。
完璧すぎて、家政婦ロボットのようで気味が悪いと感じていたのは本音だ。
たわいもない世間話はしても、俺のことに踏み込んではこないし、遠慮しているのか避けられているのか判断がつかない。食事以外は互いの部屋にいる時間が多く、ルームシェアをしている感覚に近かった。
だからきっと、彼女も決められた結婚に従っているだけなのだろう。そのうち俺を見限って、好きな男ができたりするかもしれない。
そんなふうに思っていたのだ。離婚届を差し出されたそのときまでは。