独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
音も静かで乗り心地もよい高級セダンだが、私にドライブを楽しむ余裕はなかった。
男の人が運転する車の助手席に乗るというのは、こうも緊張するものなのか……。
鼓動はずっと速いリズムを刻み、手はじっとりと汗ばむ。小田切先生が他愛のない話を振ってくれても、相槌を打つのがやっとだ。
小田切先生は当然そんな私に気づいていて、マンションの地下駐車場に車を停めてすぐ、助手席の私を見て悪戯っぽく笑う。
「今日は一段と意識してるって顔」
指摘されるとますます恥ずかしくなり、うつむいてしまう。すると、大きな手がスッと頬に添えられ、そっと上を向かされた。
「かわいい」
妖艶なささやき声と、蕩けるような眼差し。キスをされるのだと察した私は、抵抗せずに目を閉じた。
二秒ほどの、短いキス。それでも心臓はうるさいくらいに暴れて、体中が甘く痺れた。
「……いこっか、部屋」
「は、はい……」
彼の言葉は文字通り〝部屋に移動する〟という意味なのだろうけど、車内という密室で、しかもキスの後の濃密な空気を纏いながら言われると、ついそっち方面の妄想をしそうになり、慌てて自分をたしなめた。