独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

「確かに結婚はしましたし、その……キス、までは受け入れましたが、いきなりその先に進むのは、ちょっと性急すぎます……!」

 正直、経験値の低い私にとっては、キスだけでいっぱいいっぱい。ベッドの中での夫婦生活のことなんて、想像しただけで気を失いそうだ。

「……まぁね。自分でも、ちょっと焦りすぎてるかなと思う」

 少し不満げに口を尖らせつつも、小田切先生は冷静にそう言った。

「で、ですよね? では、今日のところは延期ということで……」

 獰猛なオオカミに、なんとか〝人間は襲っちゃダメなんだよ〟と教えるような気持ちで、できるだけ穏やかに言い聞かせる。しかし、私を見下ろす双眸の奥からは、なかなか情欲の炎が消えてくれなかった。

「でもさ、初めてのことならなおさら……練習が必要じゃない?」
「れ、練習……?」
「そう。オペと一緒。実際にやってみるしか、上達の道はない」
「いや、ですから、その初回が今日であることに私は異議を申し立て――」

 その先の言葉は、強引なキスに遮られ、発することができなかった。強く押しつけられた熱い唇に、思考能力を奪われる。

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