独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「小田切、先生……」
「うん?」
彼の手が、わきの下にあるワンピースのファスナーに掛かっているのは気づいていた。
でも、もう限界。これ以上先に進んだら、自分がどうなっちゃうのか、確かめる自信がない――。
「ほんとうに……今日は、もう、このへんで……許してください」
懇願しながら、思わず涙目になる。
……あれ? なんで泣いてるんだろう、私。
戸惑いながら見つめた先の彼は、我に返ったようにハッとして、私の体をそっと起こしてくれる。私は膝を抱えて、そこに顔をうずめた。
「……ごめん。怖かった?」
気づかわしげに尋ねられ、ふるふる首を横に振る。
怖かったわけじゃない。不快なわけでもなかった。なのに、涙が出るのはたぶん……。
「ひ、引きました……よね?」
「え? なに言って……」
「だって、普通の女性なら……きっと、最後までできたのに……。私、ぜんぜん、ダメで」
ついこの間まで『恋愛には興味がない』とか言っていたくせに、小田切先生はキスにしろそれ以上にしろ、なにかと手慣れている。
それに比べて、二十八年間の人生でキスすら未経験だった自分の幼さが、恥ずかしいやら不甲斐ないやら……。