独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
小田切先生は的確な指示でスタッフの落ち着きを取り戻させ、蓮見先生から引き継いだオペを完璧にこなしていく。
主要な神経、血管のどこも傷つけることなく、慎重に腫瘍を削り取っていき、最後、頭を閉じる作業を残すだけになると、「あとはできるよね」と、助手の私に交代を命じた。
日頃の練習の賜物で、手術創をきれいに縫合するのには自信がある。
私にできることはそれくらいしかないというのが情けないけれど、閉創は最後の大切な作業だ。
傷跡ができるだけ目立たなくなるように思いを込めながら、私は美波ちゃんの頭を、丁寧に、慎重に、閉じるのだった。
七時間にわたったオペの後、小田切先生とともにご家族への説明を終えると、やりきった達成感から放心状態になってしまった。
ぼうっとしたまま廊下を歩きだしてすぐ、隣にいる小田切先生が労いの言葉をかけてくれる。
「お疲れさま」
「いえ、小田切先生こそ」
オペ中の鋭い眼差しから一転、やわらかい表情の彼に、なんとなく気が安らぐ。