独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「……ふうん、秘密ね。なんだか、つけ入る隙がありそう」
つけ入るって……小田切先生が結婚していると知っても、その上で彼を誘惑しようとしているってこと?
ざわざわと不穏な音を立て、心が揺れた。
黒瀬さんはヒールをコツコツと鳴らし、こちらに近づいてくる。私たちは慌ててドアから離れ、たった今この病室を訪れた体を装った。
「あら、お疲れさまです、先生方」
ドアから出てきた黒瀬さんが、緩くうねる髪をふわりとかき上げながら私たちに微笑みかける。
彼女が美しく艶っぽいのはいつものことなのだが、今日はなぜだろう。その姿を見ただけで、ちくんととげが刺さったように、胸が痛くなる。
「お疲れさま」
「……どうも」
しらじらしくふたりで挨拶をすると、黒瀬さんが蠱惑的に輝く瞳で小田切先生を見上げる。
「ちょうどよかった、小田切先生。今、少しお話しできますか?」
「ええ、なんでしょう」
「ここではちょっと……。先生に、折り入って個人的な相談なんです」
言いながら、黒瀬さんはちらりと私を見る。ここのナース達よりは露骨でないが、その視線の意味するところは結局〝邪魔よ〟ってことだろう。