独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「……私、先に入ってますから」
とげが刺さったままの胸が、ますますズキズキ痛むのを感じつつも、素っ気なく言って病室の中に入る。小田切先生の反応は、怖くて見られなかった。
「愛花先生。来てくれたんだ」
私の姿を見た蓮見先生が、笑顔で歓迎する。さっき倒れた人とは思えない、からっと明るい笑顔だ。
「どうですか? お加減」
「俺なら大したことない。ごめんね、中途半端にオペを投げ出して」
「ええ、本当に……パニックになりそうでしたよ」
「でも、愛しの旦那様が助けに来てくれたから、パニックにならずに済んだんでしょ?」
そのセリフを聞いて、私は一瞬固まった。蓮見先生が、探るような目つきで私を見つめる。
やっぱり、そうか……。蓮見先生は気づいているのだ。私と小田切先生の関係に。
勘のよすぎるこの人には、これ以上ごまかしても無意味だろう。
「あの……そのこと、できれば口外しないでいただきたいのですが」
「いいけど、なんで秘密にするのか教えてほしいな」
興味津々に聞かれて、答えに迷う。でも、私が小田切先生に惹かれ始めていることだけは、なんとしてでも隠しておきたい。