独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「契約結婚なんです、ただの。なので、無用な職場の冷やかしや、嫉妬などを避けたくて」
完全に嘘ってわけではない。最初の約束では、本当にそうだった。
今は少しずつ、その関係は形を変え始めているけれど……。
「なるほど……契約結婚ね。なら、別にいいわけだ。アイツが小田切に迫っても」
「アイツって……黒瀬さんですか?」
「そう。今頃どっかの暗がりに連れ込まれて、襲われてるかもよ?」
蓮見先生の言葉は単なる想像なのに、黒瀬さんが小田切先生に色っぽく迫るシーンが勝手に脳裏に浮かんで、胸が騒いだ。しかし、蓮見先生にはそれを悟られたくないので、平静を装う。
「……別に、問題ありません。何度も言いますが、契約結婚なので」
「そう? 愛花先生が平気ならいいけど……。ずっと素直になんないままだと、そのうち俺みたいに自分の本音わからなくなっちゃうから、気をつけて」
蓮見先生が苦笑しながら忠告する。その瞳がどこか寂しげだったので、私はいつものように茶化すことができず、「一応、心に留めておきます」と返事をした。