独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
雑談の後、蓮見先生からいくつか仕事を頼まれて病室を出ると、小田切先生も黒瀬さんもいなくなっていた。『ここではちょっと』言っていた黒瀬さんに従って、どこか別の場所に移動したのだろう。
別の場所……。第三者の目があるところならまだしも、そうじゃなかったら……。
私はまた無意識にふたりのラブシーンを思い浮かべてしまい、ぎゅ、と胸が苦しくなった。
もしかして私、黒瀬さんに嫉妬してる?
初めて芽生えた苦しい感情をどうしたらいいのかわからず、とりあえず仕事に集中、と気持ちを切り替える。
それから蓮見先生と自分の担当する患者さんの様子を見て回り、ナースに必要な指示をしているだけで、あっという間に窓の外が暗くなっていた。
今夜も遅くなっちゃいそうだな……と思いつつ、医局に向かって歩き出したその時。白衣の胸ポケットでPHSが鳴った。
「はい、早乙女です。……鴨川さんの目が覚めた? すぐ行きます!」
私は踵を返し、術後管理のために美波ちゃんが入室しているHCU(高度治療室)に急いだ。
ベッドの上の彼女は、とても穏やかな顔をしていた。容体も極めて安定している。今日のところは絶対安静だが、一般病棟に戻るのにそう時間はかからないだろう。
「聞きました……。私の手術、担当の先生が倒れちゃうトラブルがあったって」
「ごめんなさい。こんなこと、絶対にあってはならないことなのに」
ベッドに近づき深く頭を下げると、美波ちゃんはゆっくり首を振る。