独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

「いいんです。……だって、私……死んでない」

 そう話す美波ちゃんは笑顔だったが、声は頼りなく震えていた。難しいオペに臨むことが、ずっと不安だったのだろう。

「目が覚めて、自分が生きてるってわかった時……一番に浮かんだのが、颯の顔でした。私、こんなに会いたかったんだって……今さら、やっと気づいて」

 美波ちゃんは胸の内を明かしながら、ぽろぽろと大粒の涙をこぼした。私は彼女の傍らに座り、手を握って語りかける。

「大丈夫。きっとまだ間に合う。生きてるんだもん。何回だって、やり直せばいい」
「お姉さん……」
「私から、颯に話してもいい? 美波ちゃんがここにいること」

 そっと問いかけると、彼女は鼻を啜り、小さく頷いた。

「お願い、します……。私、消しちゃったんです、颯の連絡先。こんなに忘れられないなんて、思ってなくて……」

 美波ちゃんはそう言うけれど、連絡先を消したのは、颯に甘えないようにと自分を律するためでもあったのだろう。

 それほどの大きな覚悟をもって、彼女は手術に臨んでいたのだ。

 ……つらかったよね。本当に、助かってよかった。

「わかった。もう安心して、ゆっくり休んでね」

 そう言い残してHCUを出ると、廊下で偶然小田切先生と鉢合わせになった。

「あ。……美波ちゃんのところですか?」
「うん。その顔は、彼女と颯くん、うまく行きそうな感じ?」
「はい。小田切先生のおかげです」

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