独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
改めて感謝を伝えると、小田切先生が私の頭に手を伸ばし、ポンポンと軽く叩く。
「愛花先生もがんばったでしょ」
優しい微笑みに見下ろされ、じわじわと頬に熱が広がる。オペの最中には厳しいひと言もあったけれど、あれはおそらく、私に冷静さを取り戻させるための言葉だったのだ。
病院ではあまり接近しないでほしいんだけどな……。内心そう思いつつも、とくに抵抗せず彼の手の温もりを受け止めた。
「今日って、この後はすぐ帰る?」
「いえ、残ってオペ記録をやるつもりですが」
「じゃあ俺も残るわ。鴨川さん診たら、どこかでふたりぶんの食料調達してくるから、また医局でね」
「えっ」
一方的に言い残した彼は、白衣を翻して室内へ入っていってしまった。
それって、医局で一緒に夕食を食べようということだろうか。オペ記録を書く際に彼がそばにいてくれるのはありがたいけど、一方で変に緊張してしまうような……。
とりあえず彼のことは一旦頭から追い出し、医局に戻って仕事に取り掛かった。今日は美波ちゃんのオペにほとんどかかりきりで他のことをする余裕がなかったので、オペ記録以外にも作成しなければならない書類が山のように溜まっている。