独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
声を荒らげながらも、胸の底に流れるのは、怒りよりも悲しい思い。
どうして私たち、こんな言い合いをしているんだろう?
冷静にならなきゃって思うのに、小田切先生が私を見限ったように思えて、胸が痛くて……つい、感情的になってしまう。
「俺にはそう見えたよ。……そんなに行きたいなら行ってくれば?」
彼は突き放すようにそう言うと、再び椅子を回転させて私に背を向けてしまった。
別に、デートになんて行きたくない。あなたがひと言〝行くな〟って言ってくれれば、今からだって断るのに……。そこまで考えて、ハッとする。
私……小田切先生に、〝行くな〟と言ってもらえるのを期待していたんだ。嫉妬されて、束縛されることで、自分に対する彼の想いを、確かめたかったんだ。
だけど、気づいたところですぐには素直になれない。小田切先生だって、一方的に私の気持ちを決めつけて、ひどいことを言った。
モヤモヤした思いはなかなか拭えず、私は無言で自分のデスクに向き直る。しかし、仕事など手につきそうにはなく、やがて諦めて立ち上がった。
「……私、先に帰ります」
「お疲れ」
彼は最後までこちらを振り向いてくれず、私は泣きたいような気持で、最悪な雰囲気の医局から逃げ出した。