独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
ドアが閉まりそうになった寸前、「すみません、乗ります!」とひとりの男性ナースが駆け込んできた。
「あ、旭」
「愛花さん! わぁ、ラッキーだな、一緒になれるなんて。医局に戻るところですか?」
「うん」
「じゃ、同じ階ですね」
旭はふわっと無邪気に微笑むが、私はなぜか気まずくてその目をまっすぐに見られなかった。
居心地の悪さを感じつつも、エレベーターのドアは閉まり、医局のある八階に向かって上昇を始める。
「そういえば、こないだの約束ですけど」
「あ……うん」
……やっぱりその話が来たか。覚悟はしていたが、いざ振られると困るな。
「明日とか、都合どうですか?」
「えっ、明日!?」
予想外のスピード展開にぎょっとして聞き返した瞬間、エレベーターが止まって扉が開く。
乗り込んできた数人の中にはあろうことか小田切先生の姿があり、ばっちり目が合ったのだが知らん顔をされた。胸の奥が、ズキっと痛くなる。
しかし、私たちの微妙な空気など知らない旭は、他にも何人か同乗しているというのに、構わず話を続ける。