独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「なにか予定ありますか? 明日」
「予定……は、ないけど……」
小さな声で答えるが、狭いエレベーターの中では丸聞こえだろう。小田切先生の耳にも、きっと届いている。なのに、やっぱり知らん顔だ。
「じゃ、お昼ごろ、病院の前で待ち合わせましょっか」
「あの、私やっぱりちょっと明日は――」
「楽しみにしてますね!」
私の言葉は、旭の明るい声に遮られ、届かなかった。
エレベーターは八階に到着し、私以外の人々が、次々下りていく。小田切先生は、ここでも振り向かない。いい加減ハッキリしない私に、もう愛想が尽きたのだろうか。
職場では私たちの関係は秘密だし、そうでなくても、あの場面であからさまに助け舟を出すことが難しいというのはわかる。旭に毅然とした態度が取れない自分が、一番悪いってことも。
でも、ほんの少しでも、気にしてくれているそぶりを見せてほしかった。そう思うのは、ワガママなのかな……。
医局に戻れば彼がいて、またお互い、背中越しに気まずい空気を共有するのだと思うと、私はエレベーターからなかなか降りられないのだった。