独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「小田切先生は、家族に結婚を急かされたりしないんですか? この病院の跡継ぎなんですよね? 早く結婚して子どもを、とか、プレッシャー与えられません?」
「あー、わりと自由なスタンスかな。本音では結婚して欲しいと思ってるかもしれないけど、直接言われたことはない。親もこの医局の忙しさはよく知ってるしね」
「そうですか、羨ましい……」
つい心の声が漏れてしまい、小田切先生が椅子をくるりとこちらに回転させた音がした。
「愛花先生、結婚急かされてるの?」
「はい。正直めちゃくちゃウザいです」
たとえば、家に帰ると、わざとらしく目立つところにザクシィが置いてある。若い芸能人が結婚したニュースがあれば『愛花、先を越されたぞ!』と焦って報告しに来る。テレビに赤ちゃんの映像が流れれば、『いいなぁ、抱っこしたいなぁ』と羨ましがる。
父や祖父のそんな迷惑行動を一つひとつ小田切先生に説明すると、「それはなかなか露骨だね……」と、困り感に理解を示してくれた。
そして、自分の身に置き換えたように言葉を続ける。
「とくに、専門医の認定取るまでの時期は、一番そんなこと考えてる余裕ないよな。そうでなくても、医者の仕事に理解があって、すれ違いの生活に文句言わない結婚相手なんて、簡単に見つかるわけない。だから俺も、結婚なんて一生縁がない気がするよ。奥さんがいれば合コンとか断るのも楽だなって思わなくもないけど、そんな理由で結婚されたら相手はたまったもんじゃないよな」