独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

 愚痴交じりの彼の話を黙って聞いているうち、頭の中に突如最高の思いつきが降ってきて、私はハッとした。

 なら……小田切先生と私が結婚すればいいんじゃない?

 私たちは同じ脳神経外科に勤務する医者だ。お互いの仕事に当然理解があり、すれ違いの生活に文句なんか出るはずがない。

 もちろん、小田切先生にだって好みがあるだろうけど、そもそも彼には恋愛する気がないのだ。にもかかわらず、ナースやMRからの誘惑は絶えない。断るのにもいちいち難儀している。

 しかし妻がいるという事実があれば女除けになり、仕事に集中できる。私は私で、彼と結婚すれば父や祖父からのプレッシャーから逃れられ、万々歳だ。

 こんなメリットだらけの妙案、試さない手はなくない?

「あの、小田切先生」
「ん?」

 椅子に座った状態で向かい合い、私はまっすぐに小田切先生を見つめて言った。

「私と結婚しませんか?」
「……え?」

 小田切先生は絶句して、もともとパッチリしている目をさらに見開いた。

 女性から言い寄られるのには慣れている彼でも、逆プロポーズの経験はどうやら初めてらしい。

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