独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
純也はちらりと海の方を見やった私の視線を辿り、波間に漂う何人かのサーファーの姿を確認すると、残念そうにため息をついた。
「しょうがない。健全なデートで我慢するか。お腹空いたし、店がたくさんある方行ってみよう」
「うん。色々食べ歩きしたい!」
海岸を後にして市街地に向かった私たちは、観光地としても有名な商店街を散策した。レトロモダンな雰囲気にどことなく郷愁を覚えつつ、ウィンドウショッピングや食べ歩きを楽しむ。
その中で立ち寄ったはちみつ専門店の、はちみつがたっぷりかかったソフトクリームをふたりで食べさせ合いながら歩いていた時だ。
「あれ? もしかして小田切くんじゃない?」
すれ違った女性に声を掛けられ、彼が足を止める。振り向いた先には、服装や持ち物からどことなくセレブ感の漂うひと組の夫婦がいた。
「松嶋か?」
純也は女性を見ながら、自信なさげに問う。
「ふふっ。当たり。今は結婚して坂井だけどね」
表情を綻ばせた女性にホッとした様子で、純也は二人に歩み寄る。
友達かな……? 人見知りの私は純也の背中に隠れるようにして、存在感を消す。