独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「久しぶりだな。観光?」
「ううん、実はこっちで脳神経外科のクリニックを開業して、今日は休診日なの。小田切くんは?」
「父親の病院にいるよ。実は俺も結婚したから、休暇をもらって夫婦水入らずの旅行」
純也が〝紹介するよ〟と言うように私の方を振り向いたので、緊張しながらも彼の隣に並んだ。
「かわいいでしょ。妻の愛花」
私の肩にポンと手を置いて恥ずかしげもなく言う純也に照れつつ、「はじめまして」と頭を下げる。
「はじめまして、坂井杏樹です。純也とは同じ医大で、研修先も同じだったんです。ちなみにこっちは、夫の宗介」
「どうも」
人の好さそうな笑みを浮かべた宗介さんが、はにかみながら会釈した。
しかし、挨拶し合ったところで友達なのは純也と杏樹さんだけ。気まずいので早く解散したいなぁなんて思っていたら、杏樹さんが口を開く。
「私たち研修中によく話していたのよ、『脳外科医に結婚なんて無理』って。でも、うちの場合は夫が仕事を辞めて専業主夫になって、私を支えてくれているの。夫のサポートがなければ、開業にも踏み切れなかった。愛花さんも専業主婦かしら? きっと、さぞ小田切くんに尽くす奥さんなんでしょうね」
「いえ、私は……」