独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
尽くすどころか、むしろ尽くしてもらう方が多いダメな奥さんだ。料理も下手だし、専業主婦になって純也を支えようなんて、一ミリも思ったことなどない。
『おふたりのように立派な脳外科医になるため勉強中の専攻医なんです』
そう言えばいいだけなのに、なぜだろう。彼女の言葉に劣等感を覚えて、素直な言葉が出ない。
どう答えようか迷っている間に、杏樹さんがなにか思いついたように目を輝かせ、両手をぱちんと合わせた。
「ねえ、お昼ご飯はもう食べた? もしよかったら、四人で食事でもしながら話さない?」
「――結構です」
私の放ったひと言に、場の空気が凍りつく。
なんてかわいげのない妻だろう。こんな言い方したら、自分だけでなく純也の株も下げてしまうのに。
そうわかっていても、胸がちくちくと痛くて、これ以上杏樹さんご夫妻と一緒にいたくなかった。
絶句する夫妻の顔は見ないようにして、私は小声で純也に告げる。
「私、先にホテルに行ってる」
「愛花……。待って、俺も一緒に行くよ」
「いいよ純也は。積もる話もあるんでしょ? 杏樹さんたちと食事をしてきて」
私は突き放すように言って、ひとりでズンズン歩きだす。