独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
最初に車を停めたから、ホテルの場所なら知っている。この辺りで一番大きくてゴージャスなビルだ。
チェックインにはまだ早いだろうから、カフェにでも入って時間を潰そう。
自分の心に落ち込む隙を与えないよう常に思考を働かせながら、私はやけに早足でホテルに向かった。
ホテルの建物に入ってロビーでキョロキョロしていると、柔らかい笑みを浮かべた案内係の女性が「小田切様ですか?」と声を掛けてきた。
「そうですが、どうして……」
名前を言い当てられたのが不可解で、思わず怪訝な顔で女性を見つめてしまう。
「ご主人の純也様から、お部屋にご案内するよう頼まれております。こちらへどうぞ」
「純也から……?」
私がひとりでホテルに向かったことを、電話で伝えたのだろうか。
部屋に入れるのはありがたいけれど、そうまでするなら、あの時すぐに追いかけてきてくれた方がうれしかったな……。
なんて、自分が突き放したくせに勝手すぎることを思いつつ、案内係の女性と客室へ向かう。十八階建ての最上階、海側の部屋だった。