独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
この部屋も、花束も、メッセージも。本当に、彼はどれだけ私に尽くせば気が済むの……?
うれしさと、感動と、それからなにも返すものがない自分の不甲斐なさとで、心の中がぐちゃぐちゃになっていたその時。
「喜んでもらえた?」
背後からここにいるはずのない純也の声がして、私は思わず振り向いた。しかし彼はちゃんとそこに立っていて、いつもの穏やかな眼差しで私を見つめている。
「純也……」
来なくていいって言ったのに、来てくれた……。
意地っ張りな私の目に、ぶわっと涙が浮かぶ。
「もしかして、泣くほどうれしかった?」
純也は困ったように微笑みながら歩み寄ってきて、花束を潰さないようにそっと私を抱きしめた。
「杏樹さんたち、は……?」
「さっきの場所で別れたよ。愛花とふたりでご飯食べたいからって」
うれしい。ありがとう。そう言えればいいのに、私はここまできてもまだ素直になれない。
「なんで? 久しぶりに会った友達なのに……」
「なんでって……愛花との新婚旅行だもん。ふたりきりがいいに決まってる」
きっぱり断言した彼は、一度体を離して、涙で濡れた私の目元に慰めるような優しいキスをした。