独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「俺は、尽くしてくれる奥さんが欲しかったわけじゃない。愛花が愛花だから好きになったんだ。だから、もう泣かないで?」
「純也……」
私がどんな気持ちであの場から逃げ出したのか、彼は全部お見通しだったのだ。
勝てないや、純也には……。
「そろそろ、ご飯食べに行こっか。ふたりで」
「……うん」
やっと素直に頷いた私に純也の表情も綻び、私たちは薔薇の甘い香りの中でもう一度だけギュッと抱き合うと、食事をしに出掛けた。
ランチに豪華な海鮮丼を食べ、海の見える美術館でアートに触れた後は、縁結びの神様がまつられた神社をお参りした。一緒におみくじを引いたら、純也は【末吉】で私は【凶】。
「ふたりして運がないね」と笑いながら、境内のおみくじ掛けの、隣同士に結んだ。
神社を後にした私たちは、日の暮れかけた海の波打ち際を、ホテルに向かってゆっくり歩く。熱海の夕焼け空には、カラスではなくトンビが、あの特徴のある鳴き声を響かせながら飛び回っていた。
「明日にはもう東京へ帰るんだ……」
「楽しい時間はあっという間だな」
しみじみ話せば話すほど、そこはかとない寂しさに包まれる。けれど、それ以上に純也とたくさん思い出を作れたことがうれしい。