独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する

『最終日……が、いいな』

 休暇の前、脳ドッグを受ける意思はありつつも、二十九歳の誕生日を俺に祝ってほしいと言って、遠慮がちにそう言った愛花。

 あの時の俺は、夫としてだけでなく、ひとりの脳外科医としても、彼女の意思を尊重して危険はないだろうと判断した。しかし……果たして本当に医師として冷静だっただろうか。

 降って湧いた休暇に浮かれて、ただただ彼女が喜ぶ顔が見たいという、自分自身の思いを優先させていなかっただろうか。

 どちらにしろ、結果的に彼女を危険に晒すことになってしまったのは、間違いなく俺の責任だ。……でも、絶対に死なせたりしない。愛花は俺が助ける。

 そんな強い覚悟の元、俺はオペの開始を告げる。

「よろしくお願いします」と挨拶するスタッフ全員の声が、いつもよりいっそう緊張していた。

 その中には偶然新人看護師、西島旭の姿もあり、帽子とマスクを着けていても、彼が動揺し青ざめているのが分かった。

 オペの役に立つつもりがないなら怒鳴りつけて退出させたいが、今はその時間すら惜しい。俺は目を細めて顕微鏡を覗き、余計な雑念を排除した。

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