独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
「ふうん。やっぱりそうなんだ」
小田切先生はなぜか楽しげにそう呟き、「じゃあ、こういうのも初めて?」と、いきなり私の手を取り、指を絡めて握った。
な、なにを勝手に――!?
「いいね、下町をこんなふうに手を繋いで歩くって。本物の仲良し夫婦っぽくて」
「べ、別に本物になる必要はないと思いますが……?」
そう言いながら繋がれた手をブンブン振ってみるが、彼の手が離れてくれる気配はない。
「愛花先生にとってはそうかもしれないけど。……もしかしたら俺、ツボにはまったかも」
そんな言葉とともに意味ありげな視線で見つめられ、私はぽかんと口を開ける。
「は……っ?」
ツボ……壺? なんですかそれは。どういう意味ですか。
理解不能の言葉に眉根をぎゅっと寄せると、小田切先生はクスクス笑って、パッと私の手を解放した。
「もうこの辺でいいよ。また来週、病院でね」
それだけ言い残し、私に背を向け歩き出してしまう。
「え、ちょっと、小田切先生――」
色々と説明が足りないんですけど……!
不服そうな私に気づいているはずなのに、彼はこちらを振り向くことなくひらひら手を振って、夕闇に消えていった。