独占欲強めな外科医は契約結婚を所望する
小田切先生は今日のオペも完璧だった。微小血管減圧術は、多数の血管や神経の集まる脳幹部を扱う極めて繊細な手術。
傷つけてはならない部分が多すぎるので、つい慎重になり時間をかけてしまう医師もいるが、小田切先生の動作は信じられないくらいに速く、かつ正確だった。
顔面けいれんは命に係わる病ではないが、患者の男性は接客業。顔の片側が無意識にひきつれてしまう症状にとてもストレスを感じていたので、麻酔から覚めた頃、症状が消えているのを実感すれば、ホッとするだろう。
「長く付き合ってる彼女がいるんだってさ」
術後のご家族への説明を終え医局に戻る途中で、小田切先生が言った。
「え?」
「今の患者さん。顔面けいれんをちゃんと治したいのは、接客の仕事のためというより、彼女の存在が大きいって言ってた。病気のせいで自信が持てなくて、本当はプロポーズしたいけどなかなか切り出せなかったって」
「……はぁ。なるほど」